「君たちはどう生きるか」を観た。

私の母は映画好きでダルデンヌ兄弟からシン仮面ライダーまで割と色んなジャンルの映画を観る。で、母から「ジブリの新作、全然宣伝してないけど今週末から始まるから観に行こうと思ったら既に結構席が埋まってた」という内容のLINEがきた。

それで思い出した、というくらいあまり強い関心を持っていなかったのだが、内容について事前情報がないというのが、なんだかその時急に魅力に感じた。

 

それで観た感想を簡潔にいうとですね、

「めちゃくちゃ良かった。好き。泣いた」

です。

でも万人にお勧めはしない。自分の解釈が正しいのかも自信がない。

 

どこか懐かしさもありつつ、今の宮崎さんだからこれを作ったのかな、と恐れ多くも思った。

 

検索サジェストでつまらないとか出てくるけど私は好きでした。見て良かったです。

 

 

好きだったポイントや印象に残った点などを以下に。ネタバレ含みます。

 

◾️私、風立ちぬは見てないのです。

実はハウル、ポニョと見て、なんだかどちらもしっくりこなかったこともあり、風立ちぬは多分予告編的な抜粋の映像すら見た記憶がないくらいでした。なので今回はポニョ以来の宮崎作品。

(因みにかぐや姫は見た。泣いた)

そういうこともあり、正直期待値が高くなかったのもまた今回感動できた要因の一つになるのかもしれません。

 

◾️まず作画が凄すぎるんだよな

ジブリどころか、最近アニメをあまり見ていない。大学時代アニメーションを専攻していたのに、大学を卒業するころには情熱が無くなって、以来アニメをあまり見なくなった。

だからというのもあるのか、久々のジブリのフルアニメーションをスクリーンで見て、それだけで感動した。しかも手描き。

(フルアニメーション=1秒間に24枚の絵で動く)

アクションのあるシーンはもちろん、日常の動作とか階段とかを登るときの体重移動、力の入れ方の描写がすごい繊細なのは昔からそうだったな、「あージブリだ」と思った。

きっとアニメーターに詳しい方は参加している人の名前から「そりゃすごいはずでしょ」とわかるような大物ばかりなんだと思います。

 

◾️えぐみやフェチズムを内包しつつ清潔感がある

これはいつも宮崎作品に対して思っていることで、今回も健在でした。

特に今回は「子供向け冒険映画」というような要素が薄く、ちょっとホラー的な描写もありつつ、気持ち悪くなりすぎないところがやはりすごいと思った。

 

ザコンロリコン……というのがもう隠れてないくらい出てるけど、それでもすっと見れるのすごいよな……

 

大量のカエルや魚(?)の内蔵は結構グロテスクでしたが。(でも作画が凄いというのが先に来る)

 

◾️ホラーぽかった。

特に序盤の演出の不穏さや不気味さはこれまでのジブリ作品とちょっと空気感が違って、多分ここも私が好きだと思ったポイントかも。

 

◾️頭の怪我

ホラー要素の他にも、宮崎作品で珍しいと思ったのは少年主人公のちょっと病んだ(弱気な)心理描写が(すごく多少ではあるが)今回はあったところ。

自分で頭に傷を作るという描写が特に印象的で、血が出る描写のグロテスクさはモノローグなどで冗長に語るより鮮明だと思った。

 

実母の死後に父親が実母とよく似た叔母と再婚、というのは思春期の子供には特に受け入れづらいことなのが明白。父親は主人公のことを大切に思って入るけど深いところまでは理解していない、本音で語れない距離感。でも叔母も屋敷の人々も優しいし、受け入れないと……

こういう葛藤の表現が必要最低限の描写で伝わってきて良かった。

 

そしてこの傷について主人公が終盤にはっきりと「自分の悪意」だったことを認めるところも好きだった。

ジブリの主人公は精神が強すぎていまいち共感するという感じが薄かったのですが、今回は後半非日常的な世界になるとはいえ、主人公に心理的に共感できるポイントがあったように思います。

 

◾️オマージュ

ジブリの原点として挙げられるフランスのアニメ「やぶにらみの暴君」のことを思い出した。(編集改変された「王と鳥」しか日本語で見る方法がなかった気がする作品)

実は私はこの作品は改変版の王と鳥も見たことがなく、抜粋された映像と大体の内容のみしか知らないんで超にわか感想なのですが、「鳥」が案内役になって冒険するという点がオマージュなのかなーと思いました。

昭和の日本から始まって鳥の導きで入り込んだ異世界は洋風な建物があったりするのも、フレンチアニメのオマージュだからなのかなと。

 

あとは、白くて可愛い「わらわら」が上へ上がっていく島がベックリンの絵画「死の島」を彷彿とさせるように思ったんだけどどうなんだろう。

そしてこの白いわらわらは主人公の元いた世界で子供になって生まれるものということなので、それが育っている島が「死の島」ぽいのはなにか意味深に思ってしまうのは考えすぎかしら。

 

他にも印象派の絵画のような背景もあってコンセプトが気になる。

 

◾️メタファー?

そして、ペリカンに食べられていくつかのわらわらは死んでしまう、とか、少女の力によってペリカン(わらわらも少し巻き添えに)が撃ち落とされる、というのを見て……

わらわらって精子のメタファー……か?(白いし)って思ったのも考えすぎかな……

でもわらわらは凄い可愛かったな……

 

◾️インコ🦜

なんでインコだったのか謎だけどでかいインコはキモ怖可愛かったな……

あと元の世界に戻った時人々にフンかけすぎだったな笑

フン掛かっても絵面が何故か爽やかなのが凄い。

 

◾️異世界のものを持ち帰ると記憶が残る

これ、なんか元になる神話とかありそうで興味深い。黄泉の国の食べ物を食べると帰れなくなるという話はあるけどそれに似たものを感じた。

そしてアオサギは記憶を持ったまま行き来できるのもどういうことなのか?

ただよくある「子供の頃だけ見ることのできる神秘的なもの・世界」の類なのかも。

塔を入口にして異世界に行くのは「千と千尋の神隠し」と通じるものもありましたね。

 

◾️終わり方

見る前に見たネタバレなしの数少ない感想ではあまりポジティブなものではないのかな、と考えていたんですけど、私としてはすごく良かったと思います。

良くも悪くも現実に着地して終わるところが。

 

何も解決してないし、好転してもいないけど生き残った人たちはその世界を続けようとする。

何か大きいことをしようというわけじゃなくて一日一日の日常を続けることを主人公は自分の意思で選んだっていうことなのかな、と間違っているかもしれないけど私は解釈しました。

 

何も解決してないけど生きていかなきゃ、っていうところが現実的だと感じるし、不可解なことに明確な答えがないのもまた現実的だと私は思うのです。

 

大叔父から世界を変える方法(変えられる可能性のある方法)と道具を与えられたけどそれに従わなかったことと、自分も他の人と同じ悪意を持った人間だと告げたことからも、現実世界ではなにも変わっていないけど、彼の中ではすごく小さいのかもしれないけど成長があったんじゃないかと思います。

 

そして老齢になった宮崎さんが老人の言う通りにしない少年を描いていることも、私としてはなんかいいなと思った。意外だった。

 

◾️安全なファミリー映画扱いだったジブリ

少なくとも私の子供時代の印象ではそういうものでした。

 

大人になって改めて考えると、かなり宮崎さんも高畑さんもどちらも作家性強強アートアニメ作家という印象に変わりました。

(おそらくアニメがより一般的になって娯楽性の強いものも増えたからというのもあると思う。)

 

で今回は商業的な娯楽映画の部分が少なくなって、内側にあったアートな部分がより強く露出した映画だったように思います。

ミニシアターで上映されるヨーロッパのアート映画のようだった。

 

そして宣伝をしない、という方針もすごい良かったと思う。これを夏休みの娯楽ファミリー映画として宣伝するのは無理があるし、先入観なしで自分で解釈するべき、みたいなのは作品のテーマにもあっているのではと思った。

でもこれはもうジブリ宮崎駿ブランドが築き上げられているからこそできることだとは思う。

 

そして面白いのは、(私だけかもしれないけど)ここまで情報がない中で封切られた映画だから「何も事前情報なしで観る」べきだ、早めに、と思わされて逆に見たくなったところでした。

 

■まとめ

見た後の勢いに任せて書いているし、パンフレットが発売されたら私の解釈が間違っているのが証明されるような情報が載っているかもしれないのですが、これはいち観客としての感想、ということで書いてみました!

おそらく、賛否両論な感じもするし、そもそも私みたいにすごく感動したという人も少なそうだけど、私はしっくりくるものがありました。